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菊水オシロスコープ COR5541 Oscilloscope_repair Kikusui 修理メモ  (2022年10月28日 記)

  菊水オシロスコープ COR5541U(デジタルオシロ 帯域:40MHz)のCRT文字表示がおかしい。
  観測波形は正常だが、表示文字がゆらゆらと上下にフラツキ、管面から外れ見えなくなることもある。
  調査の結果、原因は文字情報を管面に表示するキャラクタ作成基板の最終ドライブ回路の異常だった。
  完全回復まで3度の修理の経過を備忘記録として記録しました。

  菊水オシロスコープ COR5541U(40MHz)の外観
      

    1990~1995年 発売の6インチ・角形CRT ポータブルタイプの40MHzオシロ。小型・軽量タイプです。


MEMO

1.分解して 不具合箇所を探す (2019年11月)
   各写真をクリックすると拡大されます。

・ケース上部を開けた様子 
   
   
   ・CRTにシールド、基板は底面から順に次の構成になっている。
    1) 後方に主電源(SW電源)、CRT用高圧電源、水平、垂直偏向駆動回路等の基板
    2) 前方に垂直(水平)入力回路、トリガ・水平掃引回路等の基板
    3) CPU、記録・再生基板、管面表示文字信号発生回路等の基板
    4) 入力シグナルサンプリング・A/D変換回路等の基板

・システムは、3)と4)の基板を立てケース上部からメンテができる工夫がされている 
   

   ・上記、3)と4)の基板はまとめて外せる。
    下に隠れていた 1)と 4)の基板が見えるようになり各VRを調整できるようになる構造。

・裏側の3)の基板を見る 
   

   ・上記3)CPU、記録・再生基板、管面表示文字信号発生回路等の基板の様子(黄色の部品は保持用電池)

・上記3)の基板に汚れを発見 
   

   ・ チップトランジスタの各端子に異常な汚れ。腐食しているようだ。

・上記3)の基板の裏側 -1 
   

   ・ 基板を外し裏側の表面を観察したところシミがある。スルーホールも怪しい。

・上記3)基板の裏側 -2 
   

   ・ 他の場所にも広がっていた。 ケミコンの電解液漏れらしい。


2.対処・その1 ・・・・・ 腐食部分をクリーニング

・チップトランジスタの端子のクリーニング 
   

   ・端子の半田付け部分を、ルーペで見ながらアルコールをつけた綿棒と楊枝で丁寧にクリーニングした。

・チップトランジスタの端子のクリーニング(Before & After) 
   

   ・きれいになりました。

・クリーニングで、表示文字は安定しました
  

  ・正常に文字が表示されるようになりました。

・ケミコン電解液漏れの基板を交換しようと中古の姉妹機(20MHz)をNETで購入
  

  ・残念ながら基板はまったく別物であったので 「二個いち」は実現しなかった。

・腐食があったTRの回路部分(CHR信号:Y軸)を観察
  

  ・CHR(文字情報)描写期間で、Y軸の輝点位置が制御されていることが解る。


3.対処・その2 ・・・・・ 部品交換 (2022年8月)

・前回修理の約2年後に通信機の修理のためオシロを使った時、管面文字が表示されなかった。
 同様の調査をしたところ、同じ場所でケミコンの漏液が進行してPT板の腐食を広げていた。
 基板の保護膜を破り、銅パターン、スルーホール(1カ所),コネクタにまで広がっていた。
 腐食で各電位が変化し、CHRの輝点が管面外になったことで文字が表示されないと思われる。
・チップトランジスタ周りを再度クリーニングをしたところ、PNP-Tr. 2個と 電解コンデンサ 1個が脱落してしまった。
・プリント板のパターンを読んで回路図を作成、脱落した表面実装型部品をDiscreat部品に交換した。
・付近のVia(スルーホール)も注意深く観察、断線していた1箇所のViaには細線を通して復旧した。

・基板をクリーニングした後の様子。TRとコンデンサが脱落した
  

  ・トランジスターのFootPrintの半田を半田ウイックできれいに除去しました。

・周辺回路図。
  

   ・PT板の出力部。PNP-NPN Tr. の2段EFでレベルを変えずドライブ回路を構成している。

・代替えDiscreat部品で復旧 (Tr:2個,ケミコン:1個)
  

  ・Discreat部品による復旧。左端(黒チューブ)はVia中継線の保護スリーブ。


4.対処・その3 ・・・・・ チップ部品の置き換え (2022年9月)

・周辺には電解コンデンサが3個残っていて、またチップ型NPN-トランジスタのリードの腐食も進んでいたので
 チップ型トランジスタ計4個とコンデンサ計4個を従来と同様の表面実装型部品に交換することにした。
 チップ抵抗(10kΩ)の半田はしっかりしていたのでそのままにした。
 (従来品)
 トランジスタ
 SY: 2SA1162 Vcbo:50V, Vceo:50V, Ic:150mA SOT-23: (body)W:2.9mm,H:1.3mm,(center間)1.9mm,(pin先)W2.4mm
 L5: 2SC1623 Vcbo:60V, Vceo:50V, Ic:100mA SOT-23: (body)W:2.9mm,H:1.3mm,(center間)1.9mm,(pin先)W2.4mm
 コンデンサ
 100uF 25V 105℃
 (代替品)
 トランジスタ: 購入(秋月) 2022/9/7 各20個入り \100 (高周波トランジスタが単価5円。古い人間には信じられないほど安価である)
 ACY 2SA1313-Y Vcbo:50V, Vceo:50V, Ic:500mA SC-59: (body)W:2.9mm,H:1.6mm,(center間)1.9mm,(pin先)W2.8mm
 CEY 2SC3325-Y Vcbo:50V, Vceo:50V, Ic:500mA SC-59: (body)W:2.9mm,H:1.6mm,(center間)1.9mm,(pin先)W2.8mm
 コンデンサ: 購入(秋月) 2022/9/7 @\60
 100uF 25V -55~125℃
 (参考)
 ・チップトランジスタの型格検索方法
 http://www.s-manuals.com/smd/

・基板から部品を外し、クリーニングした後の様子
  

  ・トランジスタとコンデンサのFootPrintの半田を半田ウイックできれいに除去しました。

・部品を変更した後の回路図
  

  ・トランジスタとケミコンを新しい部品型格に変更します。

・代替えトランジスタとケミコンを装着した後の様子
  

  ・表面実装のトランジスタとケミコンのハンダ付けは繊細な作業。ルーペの力を借りて。。


・実装後の管面の様子。文字・カーソルの位置が少し変わりました
  

  ・特にX軸の文字・カーソル位置が左にずれて、スケール外になってしまった。
   PNP-トランジスタのVBEが小さくなったか、NPNのVBEが大きくなったか?
   各Tr.の規格:ICmaxから考察するとNPNのVBE低下の効果が大きいはず? (謎?)


5.対処・その4 ・・・・・ 文字とカーソル表示位置の調整

・菊水のサービス部門に電話して、調整VRの位置を問い合わせたが、
 すでに回路図やメンテマニュアルは廃棄しているとのこと。
 PT板のパターンを追いかけて探すしかない。
・WEB上で同等な文字表示機能があるオシロスコープの回路図を探した所、
 日立(Hitachi)製のオシロ:V-1065の回路図が見つかった。これを頼りに文字位置調整用VRの位置を探した。
 回路図を読み解くと、垂直(V)、水平(H)とも、主信号表示期間外に一時的に割り込んで表示を止め、
 V-H信号(Z信号)で文字(CHR: Character)を表示している。
 割り込み回路は並列差動アンプ構成で、CHR信号専用の振幅とオフセット調整用VRが付いている。

・Hitachi オシロ:V-1065 垂直信号差動増幅部分の回路
  

  ・「CHR-Y Center」 と 「CHR-Y Gain」 のVRが記載されている。


・垂直軸は、本機の底面の水平・垂直偏向駆動回路の基板に調整VRがあった。
  

  ・垂直軸の位置調整VRはPCB上に記載が有って判りやすい。
   これらのVRは、基板上面からも調整可能な構造になっている。


・Hitachi オシロ:V-1065 水平信号差動増幅部分の回路
  

  ・「CHR-X Center」 と 「CHR-X Gain」 のVRがある。

・水平軸のアンプは上記2)トリガ・水平掃引回路基板にあった
  

  ・基板上に X と書いた配線が(交換したNPNトランジスタからの)水平文字信号のラインである。

・水平軸のアンプの調整VR部分を拡大(紙穴の部分)
  

  ・X軸CHR調整VRは、①Gain: RV607、②Offset: RV606である。
   これらのVRは、基板上面からも調整可能な構造になっている。

・COR5541の文字表示 水平信号差動増幅部分の回路図
  

  ・普通の差動増幅器である。

・文字・カーソルの位置調整後の管面。
  

  ・Y軸、X軸の文字・カーソル位置が所定の位置になりました。

・部品交換作業のまとめ
  

  ・表面実装部品のFootPrint、実装後、Charactor表示位置調整後の写真を1枚にまとめました。


故障は、完全に直りました。。。


<あとがき>

・ まれにしか使用しないオシロスコープであるが、電子回路の詳細解析の時の必需品である。
  CRTのアナログ型で愛着があり、古い物でも身近にあると心強い。
・ 修理過程で、基板はIPA(イソプロピルアルコール)で洗うようにクリーニングしたが今後の腐食進行は不明。
  いつまで使えるか、労りながら使い続けたい。


メデタシめでたし (^_^)



オシロスコープ COR5541 仕様
■ ストレージモード
最高サンプリング速度・ 20MS/s・2CH同時
垂直軸分解能・・・・・・・・ 8ビット 25POINT/DIV
水平軸分解能・・・・・・・・ 12ビット 400POINT/DIV
メモリ容量・・・・・・・・・・・ アクイシジョン・4Kワード×2/セーブメモリ・4Kワード×2
(バッテリバックアップ)
実効ストレージ周波数・・ 単発5.7MHz(カーブ補間使用)
実効立上り時間・・・・・・・ 80ns以下:10μs/DIV以上のレンジでSINGLE掃引にて、リニア補間使用時
プリトリガ・・・・・・・・・・・・ 0/1/5/9DIV
ビュータイム・・・・・・・・・・ OFF/1s
ロールモード・・・・・・・・・ 0.2s~5s/DIV
エンベロープモード・・・・ 50μs~5s/DIVにて50ns幅のパルスを50%以上で捕獲
補間機能・・・・・・・・・・・・ リニア/カーブ
拡大機能・・・・・・・・・・・・ 水平:×1000(最大)
■ リアルモード
□ 垂直軸
動作モード・・・・・・・・・・・ CH1、CH2、DUAL(ALT/CHOP)、ADD、CH2 INV
入力インピーダンス・・・・ 1MΩ±2%、21pF±3pF
最大許容入力電圧・・・・ 400V peak(DC+AC peak)
垂直チャンネル数・・・・・ 2チャンネル
感度・帯域・・・・・・・・・・・ 2mV~10V:DC(AC:10Hz)~40MHz
□ 同期
信号源・・・・・・・・・・・・・・ VERT、CH1、CH2、EXT、LINE
結合方式・・・・・・・・・・・・ AC、DC、TV(TV-V、TV-H)、HF-REJ
トリガモード・・・・・・・・・・ AUTO、NORM、SINGLE
トリガ感度・・・・・・・・・・・・ DC~10MHz:0.4DIV(0.2V)
DC~100MHz:1.5DIV(0.75V)
TV-V、TV-H:1.5DIV(1.5V)
レベルオート・・・・・・・・・・ あり
ホールドオフ・・・・・・・・・ あり
□ 水平軸
掃引表示・・・・・・・・・・・・ NORM、MAG、ALT-MAG
掃引時間・・・・・・・・・・・・ 0.1μs~0.5s/DIV、MAG:MAX 5ns
掃引拡大・・・・・・・・・・・・ 10倍、20倍
□ X-Y
動作モード・・・・・・・・・・・ CH1:X、CH2:Y
周波数帯域・・・・・・・・・・ DC~2MHz -3dB
位相差・・・・・・・・・・・・・・ DC~100kHzにて3゜以内
□ CRTリードアウト
設定表示・・・・・・・・・・・・ ●CH1、CH2のスケールファクタ●10:1プローブ使用表示
●主掃引、拡大掃引のスケールファクタ●コメント
カーソル測定・・・・・・・・・ ΔV、ΔT、1/ΔT
□ CRT
スケール画面・・・・・・・・・ 6インチ角形白色内面目盛り付
加速電圧・・・・・・・・・・・・ 約12kV
■ 電源
定格電圧・周波数・・・・・ AC100~240V/50~400Hz
最大消費電力・・・・・・・・ 約45W
■ その他
校正電圧・・・・・・・・・・・・ 正極性方形波 1kHz±5%、0.5Vpーp±2%
インターフェース・・・・・・ GPIBまたはRS-232Cのいずれかを装着可能(オプション)
外形寸法・・・・・・・・・・・・ 330(360)W×125(145)H×385(420)Dmm ()は最大寸
質量・・・・・・・・・・・・・・・・ 約6.5kg
付属プローブ・・・・・・・・・ P060-6CE(10:1、1:1)×2本